顧客情報を活用したエリア分析で効果的な販促計画

GIS専門誌に掲載していた記事が公開できることとなりました。
過去を振り返ることにより、現在のヒントになることは意外と多いものです。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

※ この記事は、2004年10月にGIS専門誌へ掲載された内容です。

顧客情報を地図で可視化することにより、新たな気付きを得ることができます。
実勢商圏を把握し効果的な販促計画まで、具体的な戦術を交えてご紹介します。

小売店への提案

ここ1年~2年の間に大型小売店の出店ラッシュも各業態店が出揃った感があり、概ね一段落したようである。こんな中、今度は各業態店間に大きな変化が生じている。それは、例えばホームセンターで食品を、あるいはドラッグストアで飲料を、また食品スーパーで園芸用品を扱うとかそれぞれの業態に取り扱う商品の壁がなくなったのである。これまでは自店にとって商業集積で集客に有利だと考えていた他業種他店が一転して競合店になってしまうという話である。

ここは各店舗で独自の戦略を立てなければ複雑化する市場をリードすることは困難であろう。今こそGISを駆使して他店との差別化作戦を立てるべきである。

口では簡単に差別化作戦というが実際にはそんなに簡単なものではない。先ずは、やはり小売業の原点に戻って基本的な自店の顧客分布や売上状況を把握し、地域特性や実施した販促結果などを踏まえた戦略立案が大きな課題である。そのためには、これらの情報をGISで解りやすく分析し、それを“読んで”それぞれ現場の担当者が判断する。この判断の結果を次の販促計画に反映させ、実施して、またその結果を分析する。この繰り返しによって独自の“差別化”が可能となるのである。この時、GISが有るか無いかではなく、分析した結果を読めるかどうかが大きなキーポイントになる。読める能力があれば差別化は可能である。

デパートをケーススタディーに提案 その①

最近の小売店のほとんどが差別化のためにとID付きのポイントカードを発行している。日々の顧客の購買履歴を収集、金額によってポイントが貯まり、次回の買い物に色々な特典があるという仕組みである。顧客の囲い込み、固定客化を狙う作戦だが、これも、多少の違いが有るにしても全てのデパートで実施しているので差別化には繋がらない。顧客から見ても当たり前と認識しているので大きなメリットを感じていないのが現状のようだ。

商圏マップの画像

図1 実勢商圏 約35km(3次商圏)、会員数:3704人、来店回数延べ:35200回(一人平均9.5回)、購買金額延べ:34億6278万円(一人平均93.5万円)、一月一人平均:0.8回来店8万円購入

顧客を地図上にプロットする

図1に表示したのはあるデパートのゴールドカード会員である。全域で3700人強の会員である。一般的にゴールドカードを所有する会員はいわゆる上顧客でかなりの頻度で来店し多くの買い物をしてくれるお客さんである。

顧客情報を読む・実勢商圏の把握

この顧客分布図からその実勢商圏が概ね35kmであることが解る。全顧客の属性データを集計すると、例えば、来店回数は年間延べ約3万5千回の来店(レジ通過回数)。一人当たり平均9.5回、年間の購買金額は延べ約34億6千万円、一人当たり平均約93万円、一月に換算すると0.8回の来店で約8万円のお買い上げということになる。

商圏マップの画像

図1 実勢商圏 約35km(3次商圏)、会員数:3704人、来店回数延べ:35200回(一人平均9.5回)、購買金額延べ:34億6278万円(一人平均93.5万円)、一月一人平均:0.8回来店8万円購入

商圏を変えて顧客情報を読む

次に商圏を電車30分圏に絞って分析してみよう。図2で示す範囲が2次商圏で、この商圏の顧客数は2004人でゴールドカード会員全体の54%、来店回数は延べ約2万6千5百回で全体の75%をカバー、購買金額で見てみると25億7千4百万円で全体の74%。詳細は以下の通りである。

更にエリアを絞ってみよう。図3が示す範囲が1次商圏で電車20分圏である。上記と同じようにみてみよう。

商圏マップの画像

図2 電車30分商圏(2次商圏)会員数:2004人(全体54%)、来店回数延べ:26474回(全体75%・一人平均13.2回)、購買金額延べ:25億7437万円(全体74%・一人平均128万円)、一月一人平均:1.1回来店、10.7万円購入

商圏マップの画像

図3 電車20分商圏(1次商圏)会員数:1205人(全体の33%・電車30分圏内の60%)、来店回数延べ:18688回(全体の53%・一人平均15.5回)、購買金額延べ:16億6364万円(全体の48%・一人平均138万円)、一月一人平均:1.3回来店、11.5万円購入

分析

ゴールド会員の分布から1次商圏、2次商圏、3次商圏単位に来店回数、購買金額等で分析すると店舗に近いほど来店頻度も購買金額も多いことがわかる。これは地の利が活きた当然の結果である。勿論、それぞれの商圏特性を分析し、そして、その商圏に合った戦略を立てる訳だが、今回は先ず、単純にこのゴールド会員分布図から自店が最も重要と考えるべき、いわゆるターゲットエリアを見付け出しそのエリアに具体的な戦術を提案することにする。

商圏マップの画像

図4

当店にとって何処がターゲットエリアか?

では、この結果を見て単純に1次商圏だけを攻めればよいかというと、間違いではないが必ずしもそうとは限らない。せっかく、この様に顧客の情報がGISで地図上に整備されているのだから、思いつくままに色々な角度から顧客データの検索を行うことをお薦めする。その結果を地図上に表示すればこれまで気付かなかったことに気付くことがある。実はこれがエリアマーケティングの最大の強みなのである。

この強みを活かして、例えば、全体の顧客の中に年間300万円以上(月平均50万円以上)も購入している顧客が存在するのか、また、存在したとして、その人達はどこかのエリアに集中しているのかといったことを検索してみる。(図4参照)もし存在しなければ今度は250万円以上とするなど数字を変えて検索すればいい。

商圏マップの画像

図4

具体的戦術その① ターゲットエリアに通常会員を表示しリストアップする

では、図5で示すターゲットエリアが解ったとして、今度は具体的にそのエリアで何をすれば好いのかということになる。これはそれぞれの店舗で何をすれば売上が取れるかといった作戦があるはずだからそれに応じた戦略を立てることになるが、ここでは、このターゲットリア内に更に多くのゴールド会員を作ることを目的とした戦略を立てることにした。

図6がそれで、この地図を見て通常会員に個別訪問しゴールド会員への切り替えを勧誘する。これまでもこのエリアの既存ゴールド会員顧客には当然外商担当の営業マンが付いており日々訪問をしているはずである。ゴールド会員に切り替えのためだけにわざわざ営業しなくても、ついで営業で通常会員顧客宅を訪問するという戦術である。

商圏マップの画像

図5

商圏マップの画像

図6

商圏マップの画像

図7

具体的戦術その② ターゲットエリアのみにDMを打つ

今度はこのエリアのみを対象に新規顧客のキャンペーンを行うという戦略である。対象エリア市町村のハローページ電話帳をベースにGISでアドレスマッチング(ジオコード)して地図上にプロットする。(図7参照)そして、このエリアのみのポイントをリストアップしターゲット顧客としてゴールドカード会員入会のDMを打つという戦術である。

次回はこの事例で新聞オリコミ作戦を提案その②として紹介する予定である。

商圏マップの画像

図7

著者紹介

著者近影

平下 治

株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズ 顧問。1943年生まれ。
地理情報システム学会GIS 資格認定協会「GIS上級技術者」第1号認定
1979年エリアマーケティング専門コンサルタント会社、株式会社JPSを設立。以来マーケティング分野のGISの開発、データコンテンツの企画・製作、GIS運用コンサルティング業務に41年間従事し、延べ1,000企業以上への提案・実践の実績を持つ。
エリアマーケティング関連著書・専門誌への投稿も多数。
また、セミナーや研修では日本全国各地はもとより米国、中国、香港、セルビアなど海外講演も多数。
ビジネスGISの草分け的存在でわが国の第一人者。

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