精度が上がった「需要予測」

2022.05.09

※ この記事は、2005年4月にGIS専門誌へ掲載された内容です。

小売店への提案

流通小売業界は、1980年頃から全国各地で出店が相次ぎ、現在は自社競合するほどまでにオーバーストアの状態となっている。小売業としての企業拡大は基本的には売り場面積の増床である。以前は全国各地に出店余地があり次々に拡大していたが、そんな時代は終焉をむかえ、今はまさに生残りをかけた競争時代となっている。その環境下で市場を読み新規出店や既存店のリニューアルをしていくには、精度の高い需要予測が必要だと言われている。また小売業をとりまく、メーカー・卸・広告・不動産・銀行など関連する企業も、顧客小売企業への付加価値情報の提供や顧客企業・店舗の評価をする際などに入念な需要予測を行っているケースが多く見られる。

そこで需要予測をする時、効率効果を高めるための不可欠な道具としてGISが重要な役割を果たすような位置付けになってきているのである。

GISをどのように運用するのか

精度の高い需要予測をする意味では、GISならではの特異な機能を活用して、様々なマーケティングデータベースを如何に自社の商売繁盛のために現実に即した形で組立てられるかが重要なポイントになっている。言い換えれば、GIS+理論+実績=予測値といった業界の経験則が反映されて運用されるということである。

基本的には、商圏内に住む人が競合店と比べ、どれだけ自店に来客してくれるのか、その結果でいくら売上が望めるかをエリア計算する。この理論に経験則を取込むことが必要である。(予測売上=消費支出×商圏世帯数×吸引率×経験則係数)

では、GISを活用して需要予測をする際の一つの基本的な考え方をスーパーマーケット(食料品)の例で紹介しよう。

図A 目的・地域別の消費者の生活スタイル(時間距離圏)

図A 目的・地域別の消費者の生活スタイル(時間距離圏)

①商圏範囲の確認

需要予測するには、先ず、商圏範囲を確定させる必要がある。消費者は目的の購入物がある場合、居住する地域性と対象商品を扱う施設によって時間的な行動範囲、すなわち商圏範囲が変わって来る。例えば「都心に住んでいる人が食料品を買いに行くのは概ね7分ぐらい」(図A)といわれており、地域の生活スタイルを時間の経験則として取込むことが重要になる。また必要に応じて現地調査による確認も行う。

図A 目的・地域別の消費者の生活スタイル(時間距離圏)

図A 目的・地域別の消費者の生活スタイル(時間距離圏)

②競合店の確認

次に商圏範囲が確定した上で、競合店の確認をすることになる。客観的に評価するために下図(図B)の影響圏を設定する。

影響圏を設定する目的は競合店を確認するためで、その理論では、設定商圏の境界上(赤色線)に住居のある顧客は反対方向の7分先の店舗にも買物に行く。したがって2倍時間(14分)の影響圏(青色線)の店舗は商圏に影響がある。つまりこの14分圏にある店舗は競合店と言えることができる。この時、食料品を扱う店舗は全て競合対象となり、SM(スーパーマーケット)・GMS(General Merchandising Store)・百貨店は勿論のこと、最近ではHC(ホームセンター)・DRG(ドラッグストア)なども含まれる。また今は、アメリカのウォルマートに見られるようなSUC(スーパーセンター)を展開しようとする傾向が出てきており、極端な言い方をすれば小規模な小売業を除けば、業種・業態を問わずボーダレスな商品構成となっていてSMにとっては大きな影響を受けている。さらには、影響圏外でも大型SCなどには現実的に顧客が行くと考えられる場合は競合店として考えねばならない。

図B 商圏範囲と影響圏(競合店舗の確認)

図B 商圏範囲と影響圏(競合店舗の確認)

図C 競合店舗の確認と設定

図C 競合店舗の確認と設定

③店舗施設ポテンシャルと道程距離の確認

従来、顧客の吸引率は「商業規模に比例し距離に反比例する」といったハフ方式の予測モデルが知られているが、日本のように様々な業種業態が入り込んだ複雑な環境下では、商業規模と距離だけでは限界があり、予測精度を高めるためにはその施設の持つポテンシャルを面積だけではなく、駐車台数・営業時間、あるいは、商品力やサービス力といった要因を説明変数に使用しなければならない。また商圏から各施設までの距離を計算する場合も、GISならではの機能を用いて、河川・鉄道・山岳などの障害物を考慮した実際の消費者の行動を道程距離として使用している。

④消費支出の調整確認

総務省統計局の家計消費支出と民間企業の管理部門とでは、その管理範囲が違う。そこで企業実績を捉らえ、スーパーマーケットで食料品を購入する場合の消費支出の分類を調整し需要予測に利用している。そうすることで企業の管理部門に合わせた絶対需要を計算することができ、実績値との比較分析が可能となるのである。

⑤需要予測計算の組立

上記のデータをもとに、吸引率(どれ位自店に来客してくれるのか)、需要額(いくら売上が望めるか)を計算するわけだが、前述したように予測理論の計算要因と係数を実績値から分析して検証し予測モデルをつくることが現実的な運用となる。この時、客観的なデータ及び理論を組立てるために、消費者から見た商圏範囲・競合店を設定することが重要となる。また実績の検証を重ねて構築された需要予測モデルの場合、出店前の競合店の施設ポテンシャルを確認し、現状を再現した上で、新規出店による市場の変化をみることで、より現実的な予測ができるようになる。

GISによる需要予測モデルの運用効果

需要予測にGISを利用することで、従来の調査分析作業が3分の1になったという時間短縮をともなった効率化が図れる大きな側面もあるが、更に本来の目的である企業活動の拡大において運用効果は広がる。店舗開発での新規出店時の売上予測も当然だが、競争激化した環境において、新規競合が出店してきた場合、既存店及び周辺店舗はどのような影響を受けるのか、また対策として増床した場合、市場はどのように変化するのかといった戦略的なシミュレーションが可能となってくる。加えて、既存店の実績と需要予測とを比較することで、エリア別(図D)・管理部門別(グラフE)に強弱を確認し、販促チラシの適正化や棚割りでの商品構成などに運用することも考えられるのである。

その分析単位は町丁目やメッシュなどより更に細かなエリアで、ビジュアルに確認して対応することが可能になる。例えば図Dでは町丁目別に実績と需要予測を比較し、売上がまだ取れる対策Aエリアにチラシを配布する必要性と店舗としての重点対策Bエリアの確認を分析している。更にグラフEでは、部門別に実績と需要予測を比較し、構成比・シェアをみて対策部門を確認できるようにしている。

以上がGISを使った需要予測の概要である。

既に我が国でもGISを活用したいくつかの需要予測モデルがあるが、いずれもその理論においてはそれ相応の裏付けを持っているはずである。どのモデルが当るか当らないかではなく、やはり、ユーザーが解り易い理論で、実績をもとにした経験則が客観的に反映され、業界の現場プロセスに即した形で運用できるモデルを構築することが現実的であると考えている。

図D 既存実績と需要予測の比較(エリア別の比較例)

図D 既存実績と需要予測の比較(エリア別の比較例)

グラフE 既存実績と需要予測の比較(部門別の応用例)

グラフE 既存実績と需要予測の比較(部門別の応用例)

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