GISが新規顧客を開拓する

GIS専門誌に掲載していた記事が公開できることとなりました。
過去を振り返ることにより、現在のヒントになることは意外と多いものです。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

※ この記事は、2005年7月にGIS専門誌へ掲載された内容です。

自動車ディーラへの提案

全国の世帯あたりの自動車(乗用車)保有台数は1.13台(H17.2国土交通省資料とH17.3総務省資料より算出)であり、自動車普及率は1家に1台以上と相当高いものとなっている。自動車の新規顧客というのは通常初めて車に乗る人というわけではないため、自社の商圏内で獲得できていない消費者を獲得(要するに、他社メーカを購入した消費者の乗り換え)することが必要である。ではその消費者はどうやって探し出すのか?

今、GISがそのツールとして重要視されてきている。

GISをどのように活用するのか

最近、自動車ディーラへGISの地域情報を活用した販促戦略を提案すると、地域の情報は自社の営業マンが一番良く知っているので必要ない、と言われるケースがよくある。しかし、本当に必要ないのであろうか?確かにFace to Faceで直接折衝した方が受注確率は高いであろうが、営業マンの人員数は限られており、既存顧客のフォロー+新規顧客の獲得に動くことは難しいと考えられる。そんな時にGISを使用すると、新規顧客にアプローチをかけ、購入見込みの高い人を抽出し、来店を促し、最終的には営業マンが折衝するという方法が可能となる。自動車ディーラ側の言うとおり、自動車販売を支えるのは営業マンの生の情報(量)であるが、+αでGISの情報を活用すると有効だと考えられる。

では、GISを活用して新規顧客にアプローチする方法を自動車ディーラの例で紹介しよう。

①商圏範囲の確認

新規顧客を探すためには、まず自社の商圏範囲を確定させる必要がある。前号でも紹介したが、消費者は目的の購入物がある場合、居住する地域性と対象商品を扱う施設によって時間的な行動範囲、すなわち商圏範囲が変わってくる。その消費者の行動範囲の把握が自動車ディーラの販促戦略でも第一歩である。

②競合店の確認

商圏範囲が確定した上で、競合店の影響を確認する。自動車ディーラの場合、個人経営の販売店兼修理工場も点在するが、これらを競合店として考えるかどうかは、規模・サービス内容により判断し、自社の販売に影響力がありそうだと思われる店舗に対しては競合点としてGIS上にプロットしたほうがよいと思う。

車種Zのターゲットエリアの画像

図1:車種Zのターゲットエリア

車種Zの顧客分布図の画像

図2:車種Zの顧客分布図

新規ターゲットエリアの画像

図3:新規ターゲットエリアの画像

③購買客の分析→ターゲットの設定

各ディーラは1車種ではなく、コンセプトの異なる多種多彩なラインアップを有している。まずは、各車種ごとに既存の購買客特性を分析することから始まる。自動車ディーラが保有している購買客の年齢・年収・世帯構成等から、その車種のターゲット像を明確にする。(例:車種Z→40歳台男性、年収500万円以上、3〜4人家族)(図1参照)

車種Zのターゲットエリアの画像

図1:車種Zのターゲットエリア

④既存客の多いエリアの特性分析

既存の購買客をGIS上にプロットしてみて、既存顧客の多いエリアを見つけだし『車種Zを購入する可能性が高いエリア』と定義する。エリアの分析単位は町丁目やメッシュがあるが、下記⑦の販促手法の決定に関して言えば、町丁目が望ましい。そして、このエリアにGISで統計データを重ねて分析をかけ、地域特性(年齢層、世帯年収、世帯構成等)を把握する。その導き出した答えは、上記①の既存の購買客から分析した結果と一致している場合と一致してない場合がある。一致している場合は、そのまま下記⑥へ進めばよいが、一致してない場合は、再度の分析で差異の原因を究明し、戦略を一本化するなり、2つの戦略でテストマーケティングを行い答えを見つける等を検討する必要がある。(図2参照)

車種Zの顧客分布図の画像

図2:車種Zの顧客分布図

⑤類似するエリアの抽出

上記④の既存顧客+GISによる統計データから導き出したエリア特性に類似しており、かつ、既存の購買客の分布が少ないエリアが新規顧客ターゲットエリアということが言え、そのエリアをGISで探すことを行う。このエリアは、既存の購買客の属性に類似した消費者がたくさんいるが、自社の顧客になっていないという宝のエリアで新規ターゲットエリアである。この分析はGIS特有の分析である。(図3参照)

新規ターゲットエリアの画像

図3:新規ターゲットエリア

⑥販促手法の決定

ターゲットエリアは決定したが、次はそのエリアにどのような販促を行うかが重要となる。個人情報保護法が施行されてからは、自社がパーミッションをとっていない消費者に対してDM等を送ることができない。よって、エリアマーケティングでは折込チラシ、ポスティングが考えられるが、自動車ディーラに関していえば、我々は日本郵政公社のサービスである「タウンメール」を提案することがよくある。タウンメールとは、町丁目内の全戸に郵便局員がポスティングをするサービスである。通常のポスティングと違い、厚みのある郵便物も配達可能であり、ほぼ確実に町丁目内全世帯に届くというメリットがあるため、町丁目単位で分析をかけるGISに非常に相性の良いサービスである。このサービスを利用し販促を実行する。

⑦結果の測定

販促戦略実行後に、消費者の反応がわかるようなフック(割引チケットをつける等)をつけ、販促効果を測定することが重要である。次回の戦略につなげるためにも是非フックをつけるべきである。その後、GIS上にレスポンスのあった顧客データをプロットし、販促のレスポンス率や費用対効果を検証する。その結果を見て、販促戦略を変更・改善していくことで独自の戦略手法を確立することができるはずである。

新規顧客獲得で使用するGISの運用効果

新規顧客の獲得にGISを使用することのメリットはいろいろあるが、通常、営業マンが新規顧客開拓をする作業・移動時間が大幅に短縮されコストダウンにつながり、業務効率化ができることがあげられる。

また、町丁目単位で戦略実行が可能なため、どの戦略が自社に適しているかを検証するテストマーケティングが安価でできることも大きなメリットである。A地区には折込チラシ、B地区にはタウンメール、そしてA地区とB地区を同じ掲載内容にしたり異なる掲載内容にしたり、または、A地区とB地区は同様のタウンメール戦略を行い、アプローチツールは同じ内容にしたり異なる内容にしたりといった実験ができる。これは、GISにてターゲットエリアを抽出しているからこそ、効率良くテストマーケティングを行えるのである。

以上がGISを使用した新規顧客獲得における一例である。あくまで上記は自動車ディーラの戦略においての事例であるため、前述したように業種・業態・商品特性に合わせて自社の戦略モデルを確立することが重要であり、今回の事例がそのヒントになると幸いである。

著者紹介

著者近影

平下 治

株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズ 顧問。1943年生まれ。
地理情報システム学会GIS 資格認定協会「GIS上級技術者」第1号認定
1979年エリアマーケティング専門コンサルタント会社、株式会社JPSを設立。以来マーケティング分野のGISの開発、データコンテンツの企画・製作、GIS運用コンサルティング業務に41年間従事し、延べ1,000企業以上への提案・実践の実績を持つ。
エリアマーケティング関連著書・専門誌への投稿も多数。
また、セミナーや研修では日本全国各地はもとより米国、中国、香港、セルビアなど海外講演も多数。
ビジネスGISの草分け的存在でわが国の第一人者。

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