小売業のエリアマーケティング
GIS専門誌に掲載していた記事が公開できることとなりました。
過去を振り返ることにより、現在のヒントになることは意外と多いものです。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
※ この記事は、2006年4月にGIS専門誌へ掲載された内容です。
ビジネス分野にGISを活用する。地図を利用するという意味で、はじめにイメージするのはやはり小売業であろう。ここにその代表的活用シーンを紹介しよう。
商圏分析、日々変化する既存店の商圏を常に把握
自店の商圏は常に知っておく必要がある。競合店の進出や他業態店の変化、道路の変化、住宅開発などによる商圏の変化を把握する。
既存店売上評価(適正売り上げ評価・部門別売上)
自店の店舗立地、商圏規模、商圏特性などを踏まえた適正売り上げ目標の設定、部門別売上を評価・検証する。
来店調査、実勢商圏の把握(ウィークデイ・週末・連休・盆・正月・催事)
自店の商圏範囲を把握することは重要な作業である。計画的に来店調査をし、これを地図上に表示すれば、一目瞭然、どこからお客さんが来店しているか把握できる。
既存店販売促進計画(販売強化エリアの抽出)
来店調査で自店の商圏範囲を確認し、商圏規模、商圏特性、競合状況などを把握できれば、その商圏に合った販促計画ができるはずである。また、ある販促を実施したときに、どこからどのくらいのお客さんが来店したかなどを検証することで、次の販促計画の参考になる。
新聞チラシ配布計画・新聞チラシ効果分析
小売業にとって新聞チラシは避けて通れない販促である。この販促を効果的にすることが各店舗の売上を大きく左右するといっても過言ではない。
GISを利用しない新聞チラシ計画はないといってもいい。少ない配布で大きな効果を得るには、計画に従って実施したチラシ配布の結果をもう一度GISで地図上にプロットしてみることが重要である。この結果を踏まえて次のチラシ計画をする。また検証する。これを繰り返すことで、必ず、この店舗のチラシ配布のノウハウが得られるはずである。
効果的ポスティング配布計画
来店調査結果やチラシ配布結果を地図上に表示し、それらの実績を基に分析して好い結果が得られそうなエリアに再度チラシを配布する訳だが、このときのエリアの分布次第では新聞チラシよりポスティングの方が効果がある場合もある。
カード会員顧客の地域別買物実態把握(POS分析)、カード会員分析(FSP)、顧客情報分析(CRM)
POSのデータからカード会員の買い物履歴を分析することによって、それぞれの顧客が何を、何時、どの位買っているか、また、その時、同時に何を買っているのかなどを把握する。いわゆるFSP(Frequent ShoppersProgram)やCRM(Customer Relationship Management)という手法で、お客さんが何を求めているのかを一人ひとり分析し、それぞれのお客さんに合った売り方を提案し、売上を増やそうという手法である。この分析結果をGISでエリア単位に適応すると更なる成果に結びつく。
出店予定地の商圏把握(商圏規模・商圏特性・競合店把握)
出店の候補地が物件業者から持ち込まれた。こんな時、すぐ現地に行くのと、あらかじめ、その商圏の概要をGISで把握して行くのとでは大きな違いが出てくる。また、GISで得た結果によっては現地に行く必要がない場合もある。
出店計画(候補物件評価・潜在需要予測・売上予測等)
出店計画には2つのケースがある。ひとつは物件ありきで、その物件を評価する場合、もうひとつはどのエリアに物件を探すかというケースである。
いずれのケースも対象物件の商圏と思われるエリアの商圏分析、競合店分析、潜在需要分析、売上予測などを行う。この時、GISは分かり易い判断材料を提供してくれる。
インストアマーチャンダイジング(棚割システム連動)
自店の商圏特性を把握し、競合店の特徴も考慮した棚割りを作らなければならない。この時、GISが提供してくれる情報は無駄のない棚割りを作る材料となる。また、多店舗を展開している企業にとっては、各店舗間で商圏特性の類似する店舗を選び、成功している棚割を横展開するなどの作戦にもGISが利用できる。
ストアコンパリソン(店舗比較・競合店比較)
他店舗との比較、競合店との比較をする。それぞれの店舗の商圏特性によって、または、店舗自体の特性によっても商品構成とか売れ筋とかが異なる。この時の店舗間の違いをGISで把握し、そのデータを各店舗の属性データとして収録しておく。次の企画や店舗展開に有意義なデータとなるはずである。
新規顧客獲得戦略
来店調査分析やチラシ効果分析、あるいは、会員顧客のPOSデータ分析やライフスタイル分析などによって自店の商圏内にターゲットとなる顧客が集中して居住しているなどの結果を基礎に新規に攻めるエリアを特定する。
適正品揃え(商品構成)
多店舗展開している企業でも、それぞれの店舗の商圏特性を把握することによって、商品構成を変える。フェースや棚割に反映させる。もはや、GISと棚割りシステムが連動しているのは常識ともいえる。
著者紹介

平下 治
株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズ 顧問。1943年生まれ。
地理情報システム学会GIS 資格認定協会「GIS上級技術者」第1号認定
1979年エリアマーケティング専門コンサルタント会社、株式会社JPSを設立。以来マーケティング分野のGISの開発、データコンテンツの企画・製作、GIS運用コンサルティング業務に41年間従事し、延べ1,000企業以上への提案・実践の実績を持つ。
エリアマーケティング関連著書・専門誌への投稿も多数。
また、セミナーや研修では日本全国各地はもとより米国、中国、香港、セルビアなど海外講演も多数。
ビジネスGISの草分け的存在でわが国の第一人者。