自動販売機の設置計画

GIS専門誌に掲載していた記事が公開できることとなりました。
過去を振り返ることにより、現在のヒントになることは意外と多いものです。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

※ この記事は、2008年10月にGIS専門誌へ掲載された内容です。

わが国の自販機の設置は世界に類を見ないほど普及している。全国の至る所で、ありとあらゆる品物が自販機で売られている。わが国の治安の良さを物語っている。

自販機の代表的なものが飲料だ。実は、この自販機による飲料の販売数量は、スーパーマーケットやコンビニの手売りの数量を大きく上回ることが多い。

また、各メーカーにとっては自社製品だけをフルに配列して販売できる重要な販売方法になっているので、自販機の設置計画はおろそかに出来るものではない。

その自販機も、設置場所の確保に躍起になって設置した結果増え続け、自販機の“商売”も以前ほど儲からなくなったのである。

加えて、コンビニの出店も相次ぎ、24時間いつでもどこでも、飲料に限らず他の物も合わせて買えるので、徐々に自販機の販売数量が低下しはじめたのである。

しかし、販売数量が低下したとはいえ、まだまだこの自販機による販売は大きな収入源であることには間違いない。そこで、以前に増して、投資効果を考えた消費者へのサービスを第一に設置場所を検討する必要に迫られている。簡単に紹介しよう。

現状把握

図1:自社自販機分布図

図1:自社自販機分布図

まず、各営業所単位にテリトリー内の自社自販機設置状況をチェックする。自販機の設置場所が、例えば取引先の酒屋であれば住所があるので地図への取り込みは簡単だ。しかし、住所がない、例えば道路沿いの“自販機コーナー”などではやはり地図を見ながら直接プロットをすることになる。

今後、GISで自販機管理をすることが重要な課題なので営業マンと営業所のスタッフの共同作業でプロットすることにした(図1)。

これを見るだけで、これまでの設置状況が把握できる。スタッフの皆さんの声は「へぇー?こんなことになっているんだ?」が大半を占める。

つまり、これまで自社の自販機の設置状況を地図で見たことがなかったので、自社の自販機の分布状況など考えてもいなかったのである。

この図を見て、スタッフが各々

  1. この辺りに少ないけど何か理由があるのかな?
  2. この辺りに多いけど何か理由があるのかな?
  3. ここに大きな大学があるのになぜないのだろう

など単純な疑問をはじめ、他にも、思いつくままに意見を出してもらうことにした。

図1:自社自販機分布図

図1:自社自販機分布図

自動販売機設置に必要なデータ

  1. 自社の自販機の設置場所(図1)
  2. 他社の自販機の設置場所
  3. テリトリー内の酒店の場所
  4. コンビニエンスストア、スーパーマーケットの場所
  5. 大学、女子大、専門学校など学校の場所
  6. イベント会場の場所
  7. 大型病院の場所
  8. 大きな工場の場所
  9. その他有効な場所
  10. 統計データとして
    人口・年齢別性別人口・昼間人口・世帯数・単身世帯数・学生数など
  11. 自社データとして
    各自販機販売数量・アイテム別販売数量・自社自販機の側に他社の自販機など…

GIS分析

自社自販機の設置場所を確認したので、背景に人口分布図と昼間人口分布図を重ねて分析することにした(図2)。

色が濃く表示されているエリアは昼夜間とも人口の多いエリアだ。このエリアには最低1台の設置は必要だと考えて、その対象となるエリアを抽出する(図3)。

図2:昼夜間人口分布図と自社自販機の分布状況

図2:昼夜間人口分布図と自社自販機の分布状況

図3:自販機設置候補エリア

図3:自販機設置候補エリア

この図に表示される対象エリアを詳細にチェックすることにした。そのエリアを拡大して表示しよう(図4)。

この範囲に既存取引店の酒店や食料品店などがあるかを確認し、あれば早速に現地に出向き、その取引店に他の飲料メーカーの自販機の設置状況をチェックする。設置があったとしても、その場所の雰囲気や状況によっては新規で設置する場合もある。これを一軒一軒検討することが具体的な設置計画でもある。また、既存取引店がない場合は、この対象エリア内の酒店などをピックアップして、現地に出向き、店の前を目視で調査し、設置の可能性を確認して、交渉に当たるというのが作戦の手順だ(図5)。

図4:対象エリア拡大図

図4:対象エリア拡大図

図5:対象エリア設置戦略図

図5:対象エリア設置戦略図

顧客サービス作戦

GISによって各営業所の各自販機の設置場所が確認できた。今度は、周辺の状況を把握する。そうすればもっと効率のよい販売促進計画が立てられるはずだ。例えば、その設置場所に他社の自販機もあり、どんな飲料を販売しているか。あるいは、その周りには大学があり、お店の前はいつも学生さんが通っている。さらには、近所にイベント会場があり、その通りは若い女性がいっぱいだ。このような色々な情報が把握できていれば、それに応える形で顧客の欲しがる飲物を入れておくなどのサービスが可能なのだ。

自動販売機の商圏

たかが自販機1台だが、その場所からどの範囲の人が利用しているかを“商圏”と考えて設置計画することによって、大きく戦略は変ってくる。

自販機の中に入れる飲料の種類を品揃えするだけでも、例えば、女性が多ければなるべく甘い物を避けて、お茶系とか果樹系の飲料を品揃えする、また、近所に大学があれば、炭酸系、スポーツドリンク系の飲料を中心にするなど工夫が必要だ。

GPSを活用すれば更に簡単

現在はGPSが普及しており、携帯電話にGPSが付いていて、例えば、設置場所の写真を撮ればその位置情報が写真と共にGISへ簡単に取り込める。現在の自社自販機の設置場所も他社の設置場所も、GPS付きの携帯電話で写真を撮ればGISに取り込める。

著者紹介

著者近影

平下 治

株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズ 顧問。1943年生まれ。
地理情報システム学会GIS 資格認定協会「GIS上級技術者」第1号認定
1979年エリアマーケティング専門コンサルタント会社、株式会社JPSを設立。以来マーケティング分野のGISの開発、データコンテンツの企画・製作、GIS運用コンサルティング業務に41年間従事し、延べ1,000企業以上への提案・実践の実績を持つ。
エリアマーケティング関連著書・専門誌への投稿も多数。
また、セミナーや研修では日本全国各地はもとより米国、中国、香港、セルビアなど海外講演も多数。
ビジネスGISの草分け的存在でわが国の第一人者。

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