売上予測のための商圏分析

Release 2023/01/17

売上予測のための商圏分析

GISが商圏の分析や売上予測に活用されて40年以上が経ち、飲食、小売り、サービスなど様々な業種業態でGISを活用した売上予測が実施されています。こうしたビジネスを展開されている企業で、売上予測を実施していないことのほうが珍しい昨今ですが、成功の鍵を握るのは「商圏」であることは疑いようがないでしょう。但し「商圏」といっても、その考え方を勘違いしている(もしくは同じ社内でも一致していない)状況が多くみられます。

今回は、商圏に関する正しい理解と、売上予測のための商圏分析の方法について掘り下げたいと思います。

目次

商圏とは 商圏分析とは

そもそも「商圏」とはなんでしょうか?商圏とは読んで字のごとく「商い」の「範囲」と理解することができます。つまり『自社店舗や出店候補地における、お客様の来店が見込める地理的な範囲』と定義できます。そんなことは当たり前…と思われる方もおられるかと思いますが、この当たり前を分析者とチーム、報告対象者(経営層)との共有を重ねることで、最終的な分析結果に対する齟齬を極力無くすことができます。
商圏の定義を上記の通りとした場合、商圏分析は以下のように定義します。

『自社店舗や出店候補地などの商取引の対象とする地域の範囲内で、居住または訪問する人の属性や嗜好などをデータに基づき分析する手法』

つまり我々のお客様が『誰(ターゲット)』で『どこから(商圏範囲)』『どのように(来店手段)』来店され、『なにを(ニーズ)』求めているのかを数値をもって裏付けることです。全てがGISや商圏分析のみで完結することはないですが、その重要な部分を商圏分析が担っていると考えます。売上予測を実施するためには、この商圏分析が非常に重要であり、分析の良し悪しによって企業の成長が左右されるといっても過言ではありません。

売上予測における商圏分析のやり方

では実際にどのようにして、売上予測のための商圏分析を実施するのか、そのやり方をみていきましょう。商圏分析には、いくつかのステップがあります。

  1. 自社の顧客データのマッピング
  2. 商圏範囲の特定
  3. 商圏範囲内のデータ取得
  4. 自社店舗の強みと弱み(売上要因)の数値化

① 自社の顧客データのマッピング

まずは、①自社の顧客データのマッピングです。お客様の住所データをプロットし、どこからお客様が来店されているのかを視覚化します(顧客データがなければ、人流データの活用や、店頭でのアンケート実施が望ましいでしょう)。(図1)

顧客データのプロット図

図1:ある2店舗の顧客データをプロット【目白店-緑、大塚店-青】

顧客データのプロット図に達成範囲を追加した図

図2:プロットの集計から、70%達成範囲は2kmと判明

② 商圏範囲の特定

次に①をベースに、②商圏の範囲を特定します。店舗を利用されているお客様がどの程度の範囲から来店されており、またその傾向がどの店舗でも一定なのか、差があるのかを把握します。これを実施することで、自社店舗の商圏範囲が明確になり、これ以降統計データ取得する際の距離をある程度絞ることができます。(図2)

※ 例:お客様(もしくは売上)の70%の達成範囲を商圏と定義
70%にする理由:主たるお客様に絞ることで、分析の精度を高めるため

③ 商圏範囲内のデータ取得

商圏範囲がある程度特定(今回は2km)できましたら、③商圏範囲内の統計データを取得します。取得するデータは主に商圏の量を示すもの(住民人口、昼間人口、従業者数など)や商圏の質を示すもの(年齢別人口、年収など)が望ましいと考えます。そうすることで、より多角的に自社店舗の特徴を掴むことができます。のちに述べますが、統計データは考え無しにあるだけデータを取得しても意味がありません。今回の分析対象である「売上」に関係があると仮説立てた項目を中心に取得することが大切です(そうしなければ思ったほどの成果が得られませんし、得られたとしても膨大な時間がかかります)。

④ 自社店舗の強みと弱み(売上要因)の数値化

ここまでである程度のファクト(商圏範囲、統計データ)は揃ってきました。これらを活用し、④自社店舗の強みと弱み(売上要因)を数値によって明確化します。自社店舗のなかには売上の高い店舗や低い店舗が混在していると思います。その理由は様々考えられますが、ここではその理由をデータによって明らかにします。例えば売上の高い店舗ほど商圏範囲内の人口が多い、さらに低い店舗ほど商圏範囲内に競合店が複数出店しているなどの状況が見えてくれば、商圏範囲内の人口が何人程度必要で、さらに競合店は何店舗以下が望ましいなどの基準を作ることができます。こうした売上に関係すると考えられる要素を一つ一つ数値をもって表現することが、売上予測における商圏分析の第一歩です。(図3)

※ 「競合店があるからNG」ではなく、「商圏範囲●km内の人口▲万人に対して、競合が■店舗だからNG」となります。

目白店と大塚店の統計データの比較(表)

図3:目白店と大塚店の統計データの比較
上記の場合、人口量は大塚店のほうが多いですが、売上は目白店が高い状況競合店店舗数が売上に影響を与えている可能性が高い

ここまでくると、ある程度なぜあの店舗は売れていて、この店舗は売れていないのかの“あたり”がつけられるようになり、さらにデータで証明できない(もしくは分からない)店舗については、統計データ以外の要素(営業力や販促など)が影響しているのでは、などの更なる仮説が構築可能になります。

加えて自社店舗の売れる要素、売れない要素が数値化できているため、新規物件を同じ基準に当てはめることで、どの程度新規物件の売上が見込めるのかも、予測することができます。これが売上予測のための商圏分析であり、この手法をブラッシュアップし続けることで、より精度の高い予測式を構築することが可能です。

商圏は円ではない

ここまで売上予測における商圏分析の手法をご説明してきましたが、実は商圏というのは円ではありません。円商圏を使用することは一般的ですが、商圏にはバリア、分断と呼ばれる、お客様が来店されるのに障害(物理的、心理的)となるような要素があります。例えば以下のような要素です。

  • 河川
  • 線路
  • 片側2車線以上の幹線道路
  • 大型施設(学校、工場、商業施設など)

これらの要素を無視して、商圏範囲を円で設定してしまうと、本来評価すべきでない範囲のデータも評価することとなり、分析の際のノイズとなってしまいます。そこで登場するのがGISに搭載されている時間距離圏という描画方法です。こちらは任意の地点から一定時間/距離で到達できる範囲を計算して描画してくれます。こちらの機能ならば、上記で記載したバリアの要素を考慮して商圏を作成可能なため、よりリアルな商圏を描き、分析することが可能です。(図4)

ドライブタイム7分での描画(図)

図4:ドライブタイム7分での描画
目白店と大塚店は間の高速道路で商圏が分断されており、円商圏では表現できませんそこでドライブタイムを活用することで、よりリアルな商圏の表現が可能
※顧客プロットをカバーできる状況を確認し、今回は7分を選択

商圏分析を成功させるポイント

売上予測のための商圏分析は、ここまで紹介した方法を実施すればある程度の成果は見込めます。しかし本当の意味で商圏分析を成功させ、貢献するためにはいくつかポイントがあると考えております。

① 仮説をもった分析の実施

分析を行ううえでの基本であり、最も重要な要素といえます。プロットのマッピングや統計データの取得だけならば、誰でも実施可能であり分析ではありません。なぜこの店舗は売上が高いのか(低いのか)、どのような要素が影響している可能性があるのか、店舗に特殊な事例はないか、などの仮説構築とその仮説検証のためのアクションが常に必要です。むしろこれができていると、GISの活用がよりパワフルとなり、分析の効率も一気にすすむと考えます。

② 使用するデータの定義づけ

どのようなデータを使用する場合でも、そのデータの定義を明確、明記しておきましょう。統計データであれば年度、顧客データなら集計期間など、分析に使用するデータの定義ははっきりとさせておきましょう。

③ 商圏分析や統計データのみで全てを語らない

商圏分析、統計データ分析を実施していると、どうしてもそのなかだけで結論づけたくなります。ですが店舗の売上というものは非常に多くの要素が絡み合って構成されており、当然自身の持っているデータのみで100%明らかにすることは困難です(加えてコロナのようなコントロールできない要素もあります)。そのため、分析を実施する際は商圏や統計データのみで明らかにできる部分は限られており、それ以外の要素による影響も多分にあることを念頭においてアクションすることが重要です

事例:統計データ以外の要素

  • 立地データ(歩行量、交通量、視認性)
  • 店舗データ(坪数、店舗間口幅、席数)
  • 営業力、サービスレベル
  • プロモーション、広告

最後に

今回、売上予測のための商圏分析をテーマに、その手法をご紹介、ご説明させていただきました。GISの活用(顧客データの視覚化、統計データの取得)は売上予測や商圏分析に非常に効果的であり、企業の成長や戦略を構築するうえで欠かせないものといえます。盲目的にデータを使うのではなく、仮説と目的をもって、正しくGISを活用できれば、より少ない労力で最大限の価値を生み出すことができるでしょう。

今回の手法を実際に実施した事例は、次号以降に掲載させていただこうと思います。GISで取得可能な統計データや、個店ごとの立地データを活用し、現場ではどのように売上予測を行っているのか。より具体的な部分に踏み込み、ご紹介できればと思います。

著者近影

著者紹介藤田 崇文

株式会社ゼンリンマーケティングソリューションズ クリエイティブ本部/デジタルソリューション部

エリアマーケティング、売上予測の分野に10年以上従事。コンサルティング会社にて小売・流通・飲食を中心としたクライアントへの分析業務に携わったのち、大手外食企業の店舗開発部門にて、売上予測、出店戦略を担う部門に参画。こうした経験を生かし、現在はエリアマーケティングを中心に様々な業界・業態へのアウトソーシング・分析業務を担当。

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