地図で見る、太りにくい体質の都道府県~GISを活用した情報の組み合わせ~
2019.03.15
データを比較し、地域特性の分析に役立つGIS。単一の統計を地図上に表現するだけでなく、複数の情報を組み合わせることも可能です。今回はGISを使って全国の肥満の傾向を調べてみます。
太平洋側地域は、要因が少ないのに肥満者が多い?
まずは、厚生労働省が「国民健康・栄養調査」を基に5年ごとに発表している都道府県別の肥満者を地図に表示してみましょう。肥満者割合が高い地域は濃い赤、低い地域はクリーム色で表わされます。
肥満者の割合
※ 調査対象 20歳以上の男性
肥満要因度指数
※ 調査対象 20歳以上の男性
北海道から太平洋沿岸にかけて肥満が多く、日本海側は少ないことがわかります。太平洋側地域は生活習慣が乱れているということでしょうか。そこで下の図を用意しました。厚生労働省が肥満の原因としてあげている5つの要因(野菜の摂取量、食塩の摂取量、1日の歩数、喫煙の習慣、飲酒の習慣)をそれぞれ独自に算出し、肥満要因が高い地域を濃い緑で塗った地図です。予想に反し、肥満要因が多いのは、肥満者が少ない日本海側地域ということになります。必ずしも肥満要因が肥満につながっているわけではないことがわかります。
新潟県民は食べても太りにくい
肥満要因が多いのに肥満者が少ない地域、太りにくい人が多い都道府県は、2つの地図を重ね合わせることで簡単に見つけることができます。
肥満者割合と要因度指数のオーバーレイマップ
※ 赤は縦軸(肥満者割合)傾向の大きい県、緑は横軸(要因度指数)傾向の大きい県、黄色はどちらの傾向も大きい県です。
濃い緑で塗られた地域は肥満要因が多いのに肥満者が少ない「太りにくい体質」の地域です。鳥取、島根、新潟、山梨、山形などが当てはまります。食べても太らないタイプの人が多いだけなのか、健康につながる別の習慣を持っているのか、更なる調査が必要ですが、GIS上に情報のレイヤーを重ねていくオーバーレイマップ*を作成することで視覚的に分析を深めることが可能です。また、黄色で示されている青森、岩手、宮城、高知などは、肥満要因の多さが実際の肥満者数に結びついていることが明らかです。これらの地域では生活習慣を改善することで肥満者数の減少が期待でき、GISが課題の洗い出しに役立つこともわかります。(*オーバーレイマップ:情報を重ね合わせた地図のこと)
情報の組み合わせは無限大
以上のように、複数のデータを組み合わせることで地域内の特性を分析することができ、どのような組み合わせを選ぶかということがGISの面白さでもあります。たとえば“甘党県”を探し、その傾向を分類するため、「家計調査」を基に「ケーキ消費支出」と「饅頭消費支出」を組み合わせた地図を作成してみます。
饅頭とケーキ支出のオーバーレイマップ
※ 赤は縦軸(ケーキ世帯当たりの金額)傾向の大きい県、緑は横軸(饅頭世帯当たりの金額)傾向の大きい県、黄色はどちらの傾向も大きい県です。
単純に菓子類全般の消費支出でランキングを作ることは容易ですが、贈答用の支出も含まれます。今回、肥満の話題に関連して「実際にお菓子を多く食べている地域」と考えられる、ケーキ消費と饅頭消費両方のランキングで上位になったのは黄色の石川、山口、岡山、愛知、鳥取、熊本などでした。厚生労働省の肥満要因に「砂糖の摂取量」は含まれていませんが、確かにお菓子好きな県だからといって必ずしも肥満者が多いわけではないようです。ともあれこの地図からはケーキ派と饅頭派、甘いもの全般が好きな“甘党県”を見て取ることができます。米どころ新潟はどちらも食べないクリーム色の地域で、辛党ということがわかります。
このように、情報と情報を組み合わせ地図上に表示することで2つの地図を見比べることなくエリアの状況が一目で分かります。
では、ビジネス分野ではどのような分析の場面で活用されるのでしょうか。
ビジネスでの活用方法
例えば、新規会員獲得施策などを検討する場合にエリア(町丁目)別に会員化率とターゲット人口(20~40代人口)を掛け合わせたオーバーレイマップを作成します。
図のように縦軸はターゲット人口、横軸は会員化率とした2軸で見ると、緑や黄色はターゲット数に対して会員が取れているエリア、赤はターゲットが多いにもかかわらず会員化率が悪いエリアとなり、最も営業を強化しなければならないエリアということが一目でわかります。 組み合わせるデータと、そこからどんな情報を読み取るかが、GIS活用の要です。