【完全網羅】
患者調査の概要・手法・活用法を深掘り解説
最終更新日:2025/06/26
目次
「患者調査」に関心を持つ方向けに、その定義や特徴・データ活用のポイントを網羅的に解説します。医療政策に携わる行政職や病院の経営企画担当者、製薬会社や医療機器メーカーのマーケティング担当者、保険会社のリスク管理部門など、さまざまな立場から活用しやすい内容となっています。最後までお読みいただくことで、患者調査の基本から地理情報との組み合わせ方、具体的な活用シーンまで一挙に理解していただけるはずです。
患者調査とは何か
調査の目的と重要性
患者調査は、厚生労働省が統計法に基づき実施する「基幹統計」の一つです。病院や診療所などの医療機関を利用している患者の状況を把握し、日本国内の医療提供体制を整備するための基礎資料とすることが最大の目的とされています。
主に以下のような情報が集計され、医療政策や保健施策の立案・評価などに幅広く活用されます。
- 傷病別の患者数・受療率
- 入院患者数・外来患者数
- 年齢階層別の受療構造
- 調査日当日における入院・外来の推計患者数
高齢化が進む日本においては、特定の疾患が急増している地域や医療圏を把握することが政策上の大きな課題です。そのため、患者調査の結果は国や自治体だけでなく、医療機関や保険会社、製薬企業など多様なステークホルダーが注目しています。
実施頻度と調査方法
患者調査は近年、3年ごとに実施されることが多いです。直近では令和5年(2023年)にも調査が行われ、公表結果の詳細は一定の集計期間を経たのちに厚生労働省のサイトや政府統計ポータル(e-Stat)で閲覧可能となります。
- 標本抽出
全医療機関を対象とした全数調査ではなく、無作為抽出された病院・診療所からデータを収集し、その結果を全国規模へ推計します。
- 調査項目
年齢・性別、傷病分類、入院外来別の受療状況など、医療政策における基礎情報が含まれます。
- 公表単位
都道府県別や大きめの医療圏単位での数値が主ですが、小さな市町村レベルまで細かく公表されるわけではありません(誤差の問題などもあるため)。
患者調査で分かること・分からないこと
得られる代表的データ
- 傷病別患者数
循環器系、呼吸器系、精神疾患などの大分類ごとに、どの程度の患者がいるかが算出されます。介護保険対象者が多いエリアであれば、高齢者の骨関節系疾患の多さを把握できるなど、地域医療のニーズをつかむ上で有用です。
- 受療率(入院・外来別)
その地域の人口に対してどの程度の人が受診しているのかを把握する指標です。入院受療率が高いのはどの疾患か、外来は増加傾向にあるのかなどを見ることで、医療機関の対応力を考える参考になります。
- 調査日当日の推計患者数
1日あたりの入院・外来患者数が算出され、医療提供体制の適正化や将来予測を行う際の基礎データとなります。
限界や注意点
- 標本調査による誤差
無作為に抽出された医療機関のデータを集計・推計しているため、誤差や不確実性は避けられません。
- 細分化エリアでの分析の難しさ
都道府県や大規模医療圏レベルでは有効な比較ができますが、町丁単位や500mメッシュといったきめ細かな地域分析には限界があります。
- 患者数と医療費は直結しない
患者調査では主に「人数」にフォーカスしており、医療費や在院日数、手術件数などの詳細は別の公的調査(病院報告やレセプト情報など)を参照する必要があります。
患者調査と国民生活基礎調査・病院報告の比較
国民生活基礎調査との違い
国民生活基礎調査は、医療費や所得、介護状況など国民の生活全般を把握する統計です。一方、患者調査は、実際に医療機関を利用している人に特化しており、疾患別の受療実態を深く知るのに適しています。両者を組み合わせると、より広い視点で国民の健康状態や生活習慣を見渡せるため、公衆衛生上の施策を多角的に検討できます。
病院報告との違い
厚生労働省が実施する「病院報告」は、医療機関の月次レベルの病床利用率や入院患者数を集計する調査です。患者調査は3年ごとに実施されるため、病院報告ほど細かい時系列の変動は見づらいですが、その代わり傷病分類ごとの詳細データを得られる点が強みです。
患者調査の活用シーン
医療機関・自治体での活用
- 医療施設の適正配置
患者数と入院・外来受療率を分析し、病床数や診療科の配置を検討。特に高齢化が顕著な地域では、在宅医療やリハビリ施設の整備計画に役立ちます。
- 健康増進施策の立案
心筋梗塞や糖尿病など特定疾患の受療率が高いエリアを把握することで、重点的な予防指導や健診キャンペーンを実施する際の根拠として用いられます。
製薬会社・医療機器メーカー
- 市場規模の推定
傷病別の患者数推移をモニタリングし、自社製品の需要予測や研究開発の優先度決定に活用します。
- 営業戦略の最適化
都道府県別の患者動向を把握して、MR(医薬情報担当者)の配置や訪問先の優先度を決定。医療機器メーカーも、循環器系患者が増えている地域をターゲットに営業活動を展開しやすくなります。
保険会社
- 加入者リスク分析
保険金支払いリスクを地域別に評価し、特定疾患リスクが高いエリアには予防サービスや特定保健指導を集中的に実施。
- 新商品開発
高齢者向けの医療保険や介護保険商品を作る上で、患者調査の受療率情報や傷病分類データが参考にされます。
患者調査をさらに深めるためのGIS活用
地理情報との組み合わせ
患者調査は全国的な標本推計であるため、データ自体は大まかな地域区分が中心です。一方、医療ニーズは同じ都道府県内でも大きく異なることがあります。そこで、GIS(地理情報システム)を活用して、より細かなエリア単位で人口構成や交通アクセス、医療機関の位置などを重ね合わせると、現場での意思決定に直結する分析がしやすくなります。
- エリア別の高齢化率と疾患分布
高齢者が集中するエリアと循環器系疾患の分布を地図で重ね合わせると、在宅医療の潜在需要を視覚的につかめます。
- 医療圏の境界を超えた患者流動
現実には、人々が自宅からアクセスしやすい医療機関へ跨いで受診するケースが少なくありません。GISで交通ルートや移動時間を考慮すれば、医療圏を補完する実質的な診療圏が見えてきます。
当社のサービス利用例
当社では、傷病別患者数推計データなどを扱っており、公式の患者調査や国勢調査の人口情報をベースに、町丁・字等・メッシュ単位で推計したデータの提供が可能です。こうした詳細データを使えば、自治体や医療機関などが特定地域の医療ニーズをきめ細かく把握し、施策の優先順位づけに活用できるようになります。
また、簡易な地理情報分析が必要な方には、ArmBoxというクラウド型のGISツールも用意しています。クラウド対応で操作が分かりやすいため、初めてGISを利用する方でも導入しやすいのが特長です。ただし、患者調査のデータや他の情報と組み合わせつつ多角的に活用することが重要となります。
患者調査を読み解くためのステップ
ステップ1 公的調査データの取得
厚生労働省の公式サイトやe-Statなどから、対象となる年度の患者調査報告をダウンロードし、傷病分類別や都道府県別、入院・外来別の結果を一覧で確認します。速報値と確定値が別に公表される場合もあるため、必要に応じて両方を参照しておくとよいでしょう。
ステップ2 重点項目の選定
すべての傷病分類を一度に深堀りするのは困難です。自社または自組織が最も注目している疾患(例:糖尿病、循環器系、精神疾患など)や地域(例:高齢化率の高い市町村など)を絞り込み、そのデータを優先的に取り出します。
ステップ3 他の統計との組み合わせ
- 国民生活基礎調査
家計や介護、健康意識との関連を見る
- 病院報告
入院患者の在院日数や手術件数などと突合する
- 国勢調査
人口構成や就業状況との掛け合わせで、潜在的な医療需要を探る
これらを踏まえると、単純な患者数の多寡だけでなく、どのような生活背景を持った人がどの疾患にかかりやすいかなど、より深い洞察が得られます。
ステップ4 GISなどツールによる可視化
地図上に受療率や推計患者数をプロットし、周辺の人口動態や交通アクセスなどを合わせて表示します。視覚的な分析を行うことで、テキストや数字の一覧だけでは見えにくい地域特有の要因に気づきやすくなります。
ステップ5 アクションプランと効果検証
- 医療機関の場合
診療科の新設・強化や増床の検討、人員配置など
- 自治体の場合
在宅医療の充実、予防啓発事業の強化、遠隔医療支援の検討など
- 企業の場合
営業エリアの選定、保険商品のアップデート、MRの訪問戦略など
施策実施後は次回の患者調査や関連する統計数値、レセプト情報などを確認し、効果検証と改善のサイクルを回します。
よくある質問
患者調査は毎年行われるのですか?
- 直近では3年ごとに実施されるのが基本です。年度によって実施タイミングに多少の変動はあるため、最新情報は厚生労働省の公表を随時チェックしてください。
小さな町単位でのデータは取得できますか?
公式の患者調査は都道府県や大きめの医療圏を基本単位としています。より細かい単位での分析には、当社の「傷病別患者数推計データ」のような独自推計データや、他の公的統計との組み合わせが有効です。
患者調査と医療費との関連は分かりますか?
- 患者調査は「人数」と「受療状況」が中心で、医療費や入院期間などの詳細は含まれません。医療費を知りたい場合はレセプト情報や社会医療診療行為別調査など、別のデータ参照が必要です。
国民生活基礎調査と患者調査を比較する意味はあるのでしょうか?
- 両者を比較することで、受療行動以外の背景要因(収入や介護状態など)との関係性が見えてきます。生活習慣や家族構成による差異を把握し、医療費適正化や福祉施策の立案に役立てることが可能です。
まとめ
患者調査は、厚生労働省が定期的に実施する公的調査の中でも医療政策の基盤となる重要統計です。入院・外来別の受療率や傷病分類ごとの患者数は、医療機関の経営や自治体の健康施策、製薬会社の研究開発や営業戦略など、非常に多岐にわたって活用されています。ただし、標本推計であることや、小さなエリアレベルでの精度に限界があることにも注意が必要です。
そのため、必要に応じて国民生活基礎調査や病院報告、国勢調査など他の公的統計を掛け合わせることで、地域特性や医療環境を立体的に理解することが求められます。また、GIS(地理情報システム)を活用すれば、地図上に各種データを重ね合わせ、視覚的に分かりやすい形で分析可能になります。
当社では、傷病別患者数推計データのように、患者調査など公的データを組み合わせた詳細なエリア分析用データの提供を行っています。さらに、GISを扱った経験があまりない方でも取り組みやすいクラウド型サービスとして、必要最小限の操作で地理情報分析を実現できるArmBoxもご用意しています。とはいえ、こうしたツールやデータだけで課題が一気に解決するわけではありません。現地調査や他の多様な情報源と組み合わせながら、適切な施策の立案と効果検証を行っていくことが大切です。
もし患者調査やエリアマーケティングに関する具体的なお悩みがありましたら、ぜひご相談ください。当社では、データ活用から施策立案・実行支援までをカバーするコンサルティングやアウトソーシングサービスも行っています。本記事が、患者調査の理解と活用に向けた第一歩となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。